症例集

2018.07.09更新

今回は抗癌剤の副作用のお話です。

まず抗癌剤の多くは細胞分裂が盛んな細胞を攻撃して効果をあげていきます。

すなわち癌細胞はどんどん増殖していくため細胞分裂が盛んなので抗癌剤が効きます。しかしながら抗癌剤は癌細胞を狙い撃ちしているわけではなく、体の正常な細胞の中で細胞分裂が盛んな所も同様に攻撃しダメージを与えてしまいます。これが副作用として現れます。

正常な体で細胞分裂が盛んな所は、毛包細胞、胃腸細胞、骨髄細胞です。

●被毛、、毛包細胞は正常な被毛を保つためどんどん細胞分裂します。細胞分裂の盛んな毛包細胞がダメージを受けることで脱毛の副作用が発現します。人間医療では毛髪が著しく脱毛します、しかしワンちゃん猫ちゃんでは体の被毛が激しく脱毛することは殆どありません。あるとしてもヒゲが抜ける程度です。被毛の脱毛はワンちゃん猫ちゃんでは殆ど問題にならない程度です。

●胃腸、、胃腸は次から次へと食べ物が入ってきて消化しなくてはいけないので常に胃腸粘膜の細胞は生まれ変わります。細胞分裂が盛んに行われています。ここが抗癌剤によりダメージを受けると食欲不振や嘔吐や下痢が副作用として現れます。抗癌剤投与から3〜5日位で副作用が現れることが多いです、これは胃腸粘膜の表面の細胞は傷つかず粘膜の根元の細胞がダメージを受けるためです、根元の傷ついた細胞が粘膜表面に上がってくるのに数日かかるため、抗癌剤投与から嘔吐下痢の副作用まで数日かかります。しかしながら抗癌剤による細胞障害の副作用ではなく、抗癌剤という薬物そのものに体が反応して投与当日に嘔吐する症例もあります。  嘔吐下痢は軽度であれば1〜2日で落ち着くので経過観察で大丈夫です(1日1〜2回の嘔吐で水は飲んでも吐かない、下痢は軟便程度)。しかし1日4回以上の嘔吐で水を飲んでも吐いてしまったり、激しい水様下痢の場合は通院治療で点滴や吐き止め下痢止めの治療が必要になります。

●骨髄、、抗癌剤の副作用で一番問題となるのがこの骨髄毒性です。骨髄はどんどん血液を作り出すために細胞分裂が非常に盛んです。骨髄細胞がダメージを受けることで循環血液中の白血球の数が減少して敗血症という体がバイ菌などに負けてしまう状態になってしまうことで、発熱して食欲元気がなくなりグッタリし酷い場合は多臓器障害になります。これも胃腸障害同様に抗癌剤投与直後ではなく、多くの抗癌剤で5〜10日後に現れます(例外もあります)。実際に血液中を循環している赤血球や白血球がダメージを受けるわけではなく、細胞分裂が盛んな骨髄がダメージを受けるので骨髄細胞が赤血球や白血球を作れなくなります、ですので今循環している白血球が寿命で減少していっても新たな白血球を作れないために白血球数が減少し敗血症に進んでいきます。抗癌剤投与後は定期的に血液検査をして行くことが必要です。血液検査で白血球が少なくても症状がなければ経過観察もしくは予防的に抗生物質の投与、白血球が少なく発熱や低体温が顕著であれば入院下での集中治療が必要になります。この骨髄毒性は骨髄造血細胞の全ての段階でダメージを受けるわけではないので、骨髄抑制は必ず回復します。

 

抗癌剤の副作用がひどかった場合(入院が必要なほどの胃腸障害、敗血症)は、多くの場合で次の抗癌剤の投与量を25%減らすことで劇的に改善します。

抗癌剤というと人間の方で脱毛や嘔吐など副作用がクローズアップされ否定的な考え方が多々ある様ですが、かといって抗癌剤を使用しないと癌の根治のチャンスを逃してしまう場合もあります。副作用を心配して抗癌剤を始めっから減量して使用すると当然生存期間が短縮される可能性があります。

抗癌剤が効くタイプの癌、効かないタイプの癌、また膀胱毒性や心臓毒性やアレルギー反応など特殊な副作用が起きる抗癌剤もあります。

抗癌剤治療は専門的な知識を持って使用すれば命を危険にさらす癌を根治させることも可能です。

抗癌剤使用には飼い主様のお考えを尊重し、副作用の説明、期待される効果などをじっくり相談させていただいた上で使用の有無、減量の有無を決定しています。

抗癌剤でお悩みの方、お気軽にご相談ください。

 

投稿者: アプリコット動物病院

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