症例集

2016.09.23更新

今回はワンちゃんの心臓病のお話です。

前回は猫ちゃんの心筋症のお話をしました。心臓の構造はワンちゃんも同じで、心臓の部屋は4つに分かれています。

肺から酸素化された血液を受け取る左心房。

左心房から酸素化された血液を受け取り、それを全身に送る左心室。

全身から二酸化炭素化された血液を受け取る右心房。

右心房から二酸化炭素化された血液を受け取り、それを肺に送る右心室。

また各部屋の間には血液が逆流しないように弁があります。 

犬 正常 心臓

犬 正常 心臓

上の動画は健康なワンちゃんの心臓超音波像です。カラードップラー超音波で血液の流れに色をつけてます。

赤い血液は左心房から左心室へ流入する血流(心臓拡張時)。青い血液は左心室から大動脈へ流れる血流です(心臓収縮時)。心臓が収縮した時に弁がしっかり機能していると血流は左心房側に逆流することなく綺麗に大動脈に流れていきます。

 

 僧帽弁閉鎖不全症とは左心房と左心室の間にある左房室弁(僧帽弁)が機能障害を起こし、弁が完全に閉じなくなってしまい血液の逆流を起こしてしまう病気です。

主に小型犬(チワワ ヨークシャーテリア マルチーズ ポメラニアン トイプードル シーズー キャバリアなど)で非常に多いです(全ての犬種でなります)。

まだ原因はしっかり解明されていませんが、加齢によって発症が増えていきます。

犬 僧帽弁閉鎖不全

こちらが僧帽弁閉鎖不全症のワンちゃんの血流です。左心房から左心室へ流れる赤い血流(心臓拡張時)。左心室から大動脈へ流れる青い血流(心臓収縮時)。それと同時に心臓が収縮した時に左心室から左心房へ噴き出している緑〜黄色のモザイクパターンが確認できます、これが僧帽弁閉鎖不全による血液の逆流です。僧帽弁がしっかり閉まらないため血液の逆流が起きてしまうのです。

僧帽弁閉鎖不全症は初期症状はほとんどありません。聴診器で聴診すると血液の逆流音が心雑音として聴取されるのみです。進行するにつれて咳や散歩時に疲れやすくなったりします(運動不耐性)。

この咳は肺水腫(肺に血液の液体成分が溜まる状態)や大きくなった心臓による気管の圧迫により起こります。血液が左心房に逆流することで左心房に圧がかかって左心房が膨れてきます、これにより気管が圧迫されて咳の原因になります。また逆流により左心房に圧がかかると連結している肺にも圧がかかり血液成分の血漿が血管から肺に漏れ出てしまい肺水腫となって咳や運動不耐性の原因となります。

犬 胸部レントゲン 正常犬 胸部レントゲン 肺水腫

 

健康な子の胸部レントゲンと僧帽弁閉鎖不全症により肺水腫を起こしている子の胸部レントゲンです。本来なら空気で満ちて黒く映る肺が肺水腫によってぼんやり白く映り心臓の輪郭もはっきりしません。また心臓も著しく拡大しています。あまりに肺水腫が重度になると呼吸困難になり酸素不足でチアノーゼ(舌が紫になる)になり卒倒したり死に至るケースもあります。このような状態になると緊急入院で酸素室に入り強心剤や利尿剤の点滴が必要になります。

 この僧帽弁閉鎖不全症は初期症状が無いので発見が遅れがちですが、実は検査及び診断は極めて容易です。単純に聴診器で心音を聴いて心雑音を聴取したら心臓超音波で僧帽弁の逆流を確認するだけです、重症度の評価も含め10分ほどで診断できてしまいます。初期症状が無いので飼い主様は気づいていないだけで、予防注射の時の健康チェックや別の理由で病院にご来院いただいた時に診断されることが殆どです。

 非常に初期の状態の軽い逆流ですと重症化して肺水腫になるまでは数ヶ月以上かけてジワジワとゆっくり進行することが一般的です。しかし急にしょっぱいもの食べて血圧が急上昇したり、激しく興奮して血圧が急上昇したり、弁を支持している糸が切れてしまったり、様々な理由で逆流が急速に悪化し急性肺水腫となることもよくあります。

 治療は一般的に内服治療がメインとなります。血圧を下げて心臓の負担を減らし心筋の変性を防ぎ肺水腫への進行を抑える内服を始めとし、進行に合わせて強心剤の併用、肺水腫傾向になれば利尿剤の併用も必要になります。基本的に内科治療は治すのが目的ではなく、初期は進行し肺水腫になるのを抑え、進行時は肺水腫による咳や運動不耐性を改善し生活の質を上げるのが目的です。内科治療は終生続けるべきです(一部の大学などでは人工心肺装置を使用し心臓にメスを入れ人工弁を設置するなどの根治を目指した外科手術も実施しています)。

 僧帽弁閉鎖不全症は初期の症状がない段階での治療をどうするかが悩みどころです。症例によっては僧帽弁閉鎖不全症であっても無症状期はワンワン吠えて元気いっぱいに走り回っています。咳や肺水腫が発現するまでの無症状期に、いったいどの段階で治療を始めるのか?明確な治療開始時期のガイドラインはまだありません。

 本院の考え方としては、進行してゲホゲホ咳して苦しがってから治療を始めるよりは、せっかく進行を抑える薬が存在するのだから無症状期から進行を抑えるお薬の内服をお勧めしております。

体重5㎏程度の小型犬であれば初期の内服代は1日あたり54円〜108円です。本院では心雑音が聴取され、僧帽弁閉鎖不全症と診断されれば飼い主様とご相談の上、心臓の内服をお勧めします。

また進行を抑える内服をしていても残念ながら最終的には進行して咳や肺水腫が現れる事があります、それを防ぐため定期的に進行度を評価して必要に応じて強心剤や利尿剤の追加を検討します。

 心臓病が心配な方、心臓病でお困りの方、お気軽にご相談ください。

 

 

 

 

 

投稿者: アプリコット動物病院

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